事務所テーブル それは人気の物件でした。
 新しい総合病院・新しい学校・大型ショッピングセンター・大型チェーン店など人気の地域のメインストリートに面した住宅地でした。
 3月に看板を設置し同時にホームページにもアップし当日から問い合わせがありました。
 ここでひとりの青年が登場します。青年と表現すれば すらっとした体型にスーツが似合う雰囲気 風になびく長髪 軽快な会話。でも彼は真逆な青年 ずんぐりむっくりの体に坊主頭 よれよれの作業服 口下手の営業オンチ
 彼の登場で私は自分自身を試される事になります。
 「僕の先輩です。僕の事をいつも大切にしてくれます。この物件先輩に売ってあげてください。おねがいします。」
 ずんぐりむっくりの坊主頭の彼を知ったのは5・6年前 賃貸マンションのリフォーム中の現場で汗していたとき名刺をいただきました。
 何度もうちの事務所にやって来て「おねがいです。まってください。先輩は僕のこと信頼してくれてます。どうかほかの人には売らないでください」そんな彼の一点張りでおよそ1ヶ月間私は身動きが出来なくなります。その間 購入希望のお客様が直接来社されたり、近隣のクリニックからも購入の希望があったりと。社内でも彼を無視して二番客に話をすすめるべきだが大勢でした。でも私は彼の瞳の奥の少年のような光を見逃しませんでした。彼を信じてやりたい。「人を疑うのはたやすい 人を信じるのは難しい だから信じてやりなさい」そんな言葉が私の脳裏に走りました。
 本日、午前中に決済 現金授受・所有権移転が無事完了し 売り主さん買い主さん双方笑顔で事務所を後にされました。お昼前 喫茶店での一杯のコーヒーが私のこころに沁みました。
薄紅色・