銀杏 いちょう
  城町公園の入口にある銀杏(イチョウ)が黄色に色付くと、96歳で他界したおばあちゃんを思い出すのです。
 90歳をすぎても食欲旺盛で焼き肉をモリモリ食べていた おばあちゃんでした。
 自分は外孫(そとまご)だったので、おばあちゃんは内孫に手厚く財産を残し、こちらはおばあちゃんの老後の世話は無縁とおもっていましたが、いつのまにかこちらで介護となりました。
 自分自身 認知症とか徘徊とかは他人事と思っていたので、これが介護の現実なんだと実感しました。3年ちかく介護をして、経験しないと学べない事を知りました。おばあちゃんの最期は ロウソクの火がゆっくりと消えていくようでした
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 依頼を受けた2つの売買物件は対称的な事案でした。
 2物件とも売却の依頼ですが、どちらも財産の処分に近い内容でした。市内でも竹原市に近い西側と尾道市に近い東側に位置し 瀬戸内海を近くに眺める市内でも一番温かい場所です。
 依頼者は昭和10年代(80歳以上)の男性、一方は昭和20年代(70歳前後)の男性で、どちらも三原市外の県内にお住まいです。
 80歳代のご老人はとても物腰が柔らかく「よかった良かった」が口癖のようで、ちょっとしたアドバイスにも「よかった良かった」とやさしく言ってくださいます。
 一方の70歳位の男性は短絡的で感情敵でこちらの意見よりご自分の意見を大きな声でおっしゃいます。
 2つの物件の査定は私が現地調査の上行い、偶然にもほぼ同額の価格設定となりました。ちなみにこの2つの物件は弊社では現在非公開扱いですので、ホームページ、チラシ、広告は行っていません。
 物腰の柔らかいご老人の売却物件はすでにご近所に買い手があるようで、弊社としてはあいさつ程度の営業活動ですみます。
 短絡的な男性の売却物件は以前、購入希望のご近所の方とモメテしまったようです。
 尾三瀬戸
 2物件の立地は海が眺望可能な場所ですが 建物がどちらも築50年以上は経過していますので、大幅はリフォームか更地にして建替えが必要です。
 物腰の柔らかいご老人の売却理由はこの不動産の所有者は自分の親戚になり、介護施設で寝たきり状態で意思表示が困難で自分が後見人となり裁判所に売買に関する書類を提出して、その売却益を寝たきりの所有者に充てるということです。
 短絡的な男性の売却理由は空家をほったらかしにしていたらご近所に迷惑がかかるし、敷地の草刈や周りの掃除にやって来るのが面倒で、空き巣が入っても盗るものは無いが、火でも出されたらご近所に申し訳ないというものです。
 
 しばらくして、物腰の柔らかいご老人が提案をされました、この古いオンボロの家を取り壊したほうが高く売れるのでないかと、解体業者に見積書をもらったら この業者は家財の処分もコミコミでやってくれる!そうだ解体費用を買主側に負担させることを契約書の特約事項に入れてほしい!
 
 ある日、短絡的な男性が保育園児の可愛いいお孫さんと弊社の事務所に来られました。今日はお孫さんの子守りだそうです。自分の代でこの不動産を処分したい、子や孫に迷惑をかけたくない。お孫さんきっと初めての不動産屋なのでしょう、棒付きアンパンマンぺろぺろキャンディーを手渡すとメロンパンちゃんのような笑顔になり、おじいさんの「お兄さんにありがとうを言いなさい」にニコリと会釈をしてくれました。 

 96歳のおばあちゃんが亡くなって1年は、おばあちゃんの私物に手を付けることはできなかった。思い出に整理がついたものから少しずつ処分して、3年たっても杖と薄いピンクのシューズは最後までそのままだった。

 物腰の柔らかいご老人から電話が頻繁にかかる、「早く売買契約書を作成してほしい、買主がそちらの事務所に住民票を持参する、あとは売買契約書だけでそれを裁判所に提出すればいいだけだ。あなたには売主・買主双方から報酬を得ることができる、いままでの労賃もお支払する。」 
 会ったこともない所有者、たとえ面会しても何の意思もない所有者・・・この所有者が仏になった時いったいどこに帰るのだろうか、きっと生まれ育った我が家に帰りたい、そしてそこで もろもろの儀式の後 旅立ちたいはずでは・・物腰の柔らかいご老人から、介護のニオイも疲れも終始感じることができなかった。「契約書・契約書・契約書」の電話に「すみません、パソコンの故障で打ち出せません」 
 
 短絡的な男性の物件、調べていくうちに親から相続で引き継いだのはいいが母屋(おもや)が登記していない、いわゆる未登記物件、切り貼りのような三原市の公道に敷地の接道の半分ちかくが他人さんの名義、それも60年以上も前でその所有者はすでに故人 その相続人を探して通行の承諾だけでなく売却のお願いをしなくてはいけない。その他の進入路の境界が曖昧(あいまい) おそらく、次の世代では法的に売却は困難な物件になるでしょう。短絡的でも裏表も嘘もないこの男性の「子や孫の代に迷惑をかけたくない」という正直な気持ちと、ぺろぺろキャンディーが似合うお孫さんの笑顔がいつまでも続くように、この案件は時間をかけてもお手伝いしようとおもいます。


                            ※ 2016年9月売却完了しました。ありがとうございました。